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東京高等裁判所 昭和43年(く)129号 決定 1968年11月28日

少年 C・S(昭二六・一・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、抗告申立人Z・T子提出の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  抗告趣意中、事実誤認の主張について。

所論は、要するに、原決定の(一)の(1)の事実につき、被害者は、少年との姦淫を承諾していたものであつて、この点を看過した原決定には、事実誤認の違法があるというものである。

しかしながら、本件「強姦致傷」少年保護事件記録に現われた証拠をしさいに調査検討すると、原決定の判示(一)の(1)の事実、すなわち、少年は、同判示の共犯者らと共謀のうえ、同判示の日時・場所において、いやがる被害者の抵抗を抑圧して、共犯者A、少年、共犯者Bの順に、強いて被害者を輪姦し、よつて、その際、同人に対し処女膜裂傷の傷害を負わせたものであることは、優に肯認することができるのであつて、当審における事実の取調の結果に徴しても、原決定の右認定には、事実誤認の疑いは存しない。もつとも、被害者は、当夜、少年らの甘言に乗じ、長時間にわたり、同人らと行動を共にしていたことが認められるにしても、それをもつて直ちに被害者が少年らの右輪姦行為を承諾していたものとはいえないし、被害者がそれを承諾していたものでないことは、右の証拠に照らし、まことに明らかである。論旨は理由がない。

なお、職権により調査すると、原決定は、判示(一)の(2)において、少年は「他と共謀して、昭和四三年八月○○日から△△日までの間調布市内ほか数カ所において前後六回にわたり現金八〇〇円衣類その他一九点を窃取し」たものであると判示し、刑法第二三五条、第六〇条を適用しているが、他方、原決定は引用していないけれども、原裁判所の立件にかかる東京地方検察庁八王子支部検察官検事北村久弥の昭和四三年九月一三日付少年事件送致書引用の警視庁調布警察署司法警察員警視佐野茂の同日付追送致書記載の窃盗犯罪一覧表によれば、少年にかかる窃盗送致の事実は、別紙非行事実一覧表記載のとおりであつて、その送致事実は、本件「窃盗・傷害」少年保護事件記録に現われた証拠により、これを認めることができ、他に、少年の窃盗事件を立件した事実は認められない。以上の諸事実に照らすと、原裁判所は、少なくとも右送致事実のほかいかなる窃盗の事実を審判の対象としたものであるか明らかでなく、また、原決定の判示(一)の(2)の窃盗の事実は、なんら特定されておらず、したがつて、少年審判規則第三六条に違反するものであり、ひいては、少年法第四六条の適用を困難にするものであるけれども、しかし、この窃盗の事実を除いても、少年を中等少年院に送致することとした原決定は、後記二のように結局相当であるから、右の法令の違反は、いまだ決定に影響を及ぼすものとはいえない。

二  抗告趣意中、処分の不当である旨の主張について。

所論は、少年を中等少年院に送致することとした原決定の処分は、著しく不当である、というものである。

しかしながら、本件「強姦致傷、窃盗・傷害」各少年保護事件記録および少年調査記録を検討し、当審における事実の取調の結果、ことに、受命判事による少年の審尋調書を検討すると、少年の年齢・性格・行動癖・生活史・非行歴・家庭事情・環境・本件犯行(ただし、原決定の判示(一)の(2)の窃盗を除く)の動機・態様・結果等について、原決定の判示するところは、まことに相当であつて、それらの諸事情を考慮すると、この際、少年を強力な国家施設に収容して、矯正教育を施し、心身練成の機会を与え、その健全な育成をはかる必要があるものと認められ、これと同趣旨のもとに、少年を中等少年院に送致することとした原決定の処分は、所論のように著しく不当であるとは、とうてい解されない。論旨は、理由がない。

よつて、本件抗告は、理由がないから、少年法第三三条第一項後段によりこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉田作穂 判事 堀義次 判事 金子仙太郎)

非行事実一覧表

番号

共犯者の氏名

非行年月日

非行場所(東京都内)

被害者の氏名

窃取品目

品名

数量

時価相当額

EBDC

昭和四四年八月〇〇日

午後一〇時ころ

調布市〇〇町〇の〇〇

京王帝都電鉄

〇〇駅下り改札ロ

〇沢〇一

現金八〇〇円

FBC

同年同月××日

午後八時ころ

品川区〇〇×の〇〇の〇〇

〇〇ミ商店

泉〇一

くつ

二足

三、一〇〇円

FEDBC

同年同月△△日

午前一一時三〇分ころ

品川区〇〇×の〇〇の〇

〇急百貨店〇井店

〇本〇雄

ゆびわ

人形

トランプ

四個

二個

一組

一、四〇〇円

五六〇円

五〇〇円

〃〃〃

午後〇時一〇分ころ

品川区〇〇×の△△の〇〇

〇谷薬局

〇谷〇俊

サンオイル

三本

一、二〇〇円

〃〃〃

午後四時ころ

調布市〇〇〇〇〇×の〇〇の〇〇

〇〇〇〇〇会館

〇藤〇一

腕輪

四個

一、四〇〇円

計 窃盗五回 盗品現金八〇〇円ほか一六点(時価合計八、一六〇円相当)

参考 原審決定(東京家裁八王子支部 昭四三(少)二〇一六号 同二〇五五号 昭四三・九・二七決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(一) 非行事実

少年は、

(1) A、D、Bらと共謀し、昭和四三年八月○○日午後九時三十分頃調布市○○重機グランドで盆踊り見物中の工員○保○子(一五歳)ほか一名を言葉巧みに同市○○調布○○中学校内に誘いこんだ上深夜を過ぎ八月○×日午前二時頃から午後五時三〇分頃の間に同校保健室において嫌がる同女の抵抗を抑圧してA、C・S(少年)、Bの順で同女を輪姦し、よつてその際同女に処女膜裂傷を与え

(2) 他と共謀して、昭和四三年八月○○日から△△日までの間調布市内ほか数カ所において前後六回にわたり現金八〇〇円衣類その他一九点を窃盗し

(3) 上記の友人らのほか五名と共謀し同年八月△□日調布市○○町○の○○番地先道路を通行中の森○一に因縁をつけ調布○○小学校庭につれこみ全治二週間を要する傷害を与えた

ものである。

(二) 適用法条

(1) 刑法第一八一条、第六〇条

(2) 同法第二三五条、第六〇条

(3) 同法第二〇四条、第六〇条

(三) 問題点

(1) 意志薄弱で根気なく自主性がなく周囲の動きに左右され無分別に行動する。

(2) 勤労意欲なく、仕事に落着かず、非行少年である兄B・Rと共に土地の問題兄弟として注意されていた。

(3) 表面では他人の説示にすなおに従うように見え、内心までとどかず、面従腹背の傾向がつよいようである。

(四) 少年の生活史および現在の環境等本件調査審判に現れた一切の事情を考え合せると、少年の非行性はとうてい在宅保護の措置ではこれを除くことができないと認めることができる。そこで少年に対して矯正教育を施し心身陶冶の機会を与えその健全な育成を図るため、少年法第二四条第一項第三号を適用して、少年を中等少年院に送致することとする。

よつて主文のとおり決定する。

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